洋菓子店とコケッコーとジジジィとツジトモ

今月は本をほとんど読まず、マンガを読みまくっている。買ったまま、借りたまま読んでいないマンガが積み上がってしまい、いよいよマンガ塔が倒れそうになってきたので、これはいかんと一念発起した。一日平均3冊くらいのペースではあるが、それなりにがつがつと、読んでいる。やー、マンガはいいですな。ほんっと楽しい。

西洋骨董洋菓子店 (1) (ウィングス・コミックス)

西洋骨董洋菓子店 (1) (ウィングス・コミックス)

よしながふみは、絵はうまくないが、描きたいことをきちんとコントロールできていて、マンガとしてはすごくおもしろい。同じような顔、同じようなポーズの人物ばかりなのに、一人一人、ちゃんと個性がある。同じようでいて、ほんのちょっとだけ違うんだよな。そのほんのちょっとの違いで、人物の特徴をしっかりと描き出している。うまい。そういう意味でいえば、絵もうまい。一冊通してじっくり読んでいくと、絵のちょっとした違いがグッとくるんだよなー。俺が読んだ「西洋骨董洋菓子店」は、登場人物の背景の掘り下げ方が絶妙だった。エピソードを一つずつ、丁寧に丁寧に演出していて、とてもよかった。人間の思考にはなんらかの背景があるということを、上手に表現していた。ちゃんと立っているんだよな。みんな。だから読み終わるころには主要人物のことがみんな好きになった。俺は橘がいちばん好きだなー。やーしかし演出が巧みだった。ケーキ屋の営業風景を中心軸として、そこに一人一人のドラマが過不足なく、適度にからんでくるという構造。ちょっと唐突な展開もあったけど、嫌ではなかった。うまいうまいとうなずきながら読んだ。橘、小野、神田、小早川それぞれの一対一の関係と、四人全員の関係と、その両方が魅力的で楽しかったです。お見事。ほかのマンガも読みたい。
天然コケッコー 1 (集英社文庫(コミック版))

天然コケッコー 1 (集英社文庫(コミック版))

くらもちふさこは、よしながふみのあとに読んだら、絵がうまくてびっくりした。この人はいろんな絵を描ける人だねぇ。表情も、風景も、動作も、心理も、それぞれに表現が凝らされていて、全体的に充実していた。俺が読んだのは文庫版だったから、カラーページがモノクロになっていたんだけど、あれはぜひカラーでみたかったなぁ。4色使ったら、すごくきれいな絵になるんだろうねぇ。やー、みてみたいなぁ。彼女の絵は、マンガとしてもうまいし、単体の絵としてみても、端正でいい。よしながふみよりも、カメラのフットワークが格段にいいね。視点がぐんぐん動いて、とっても楽しかった。くらもちさんのほうが、いいレンズをもっているなぁ。描線にちょっと妙なくせがあるのが最初は気になったけど、読んでいるうちに慣れた。や、人間がときどき動物みたいな顔をするんだよなー。あれはなんだろう。ある種のデフォルメなのかねぇ。大沢くんの顔が、日によってぜんぜん違うんだよな。しかしまぁ、表現が多彩な人ですね。拍手拍手。「天然コケッコー」は、話や演出はけっこう複雑なんだけど、でも作品の中心に常に静けさや愛情があって、ずっとおだやかに読めた。やー、プロの仕事ですなぁ。素晴らしい。あとくらもちさんは少年少女だけでなく、青年や中年や老年もしっかり描けていて、それもすごいと思った。お父さんがいいキャラクターだよな〜。やー、これはマンガを読んでから映画をみたら、また違った楽しみがありそうですなぁ。それも楽しみだ。俺はこのマンガの男の人たちが好きです。お父さんも、シゲちゃんも、田浦のじいさんも、松田先生も、それから大沢くんも、みんないい男じゃないか。俺はこういう人たちが好きだなぁ。
ジジジイ -GGG-(1) (モーニング KC)

ジジジイ -GGG-(1) (モーニング KC)

小山宙哉は、どの作品も主人公が強い。デビュー作の「ハルジャン」も、「ジジジィ」も「宇宙兄弟」も、いずれも主人公の人格をあたたかく描くマンガになっている。3作とも、タイトルが主人公のことを表現する言葉になっているしね。彼は人間を描きたい人なんだろうねぇ。スキーや宇宙はひとつの舞台装置であって、それを掘り下げることよりも、スキーや宇宙にかかわる人たちのおもしろさを描きたいんだろう。きっと。それを通じて、スキーや宇宙の魅力を引き出そうとしているようにみえる。なにしろ、出てくる人がみんなちょっと変わっていて、みんな変に魅力的なんだよな。それがすごくいい。人物が変だから、セリフもいちいちおかしい。いまちょっと正確には覚えていないんだけど、「宇宙兄弟」で主人公のムッタ(この名前もすごい)が、伊東せりかの昼食中の姿をみて「なんてきれいにお昼を食す人だ」みたいなことを考えたのが、すごくよかった。お昼を食すってなぁ。人間の話す言葉が好きな人じゃないと、なかなか書けないセリフだよなー。その一言と、なにかあるたびに握手を求めるキャラクターの可笑しさにやられて、いま小山宙哉にはまりまくっております。彼は、いまも楽しいが、今後も楽しみだ。彼の単行本のスペシャルサンクスにツジトモの名前が入っているんだけど、小山さんも、ツジトモに負けずにがんばってほしいね。
GIANT KILLING(1) (モーニング KC)

GIANT KILLING(1) (モーニング KC)

で、そのツジトモも単行本を買って読みはじめた。「GIANT KILLING」。さすがに新人だから、最初は絵が違う。でも、1巻の後半あたりで、もういまの絵に近くなってきている。コマ割りも初期のうちからうまい。すごいなー。週間連載に、一気に慣れたんだろうか。もともと上手な人なんだろうけど、初単行本でこの安定感はすごい。なんだろう。誰かすごい人のアシスタントだったのかな。や、顔や性格の描き分けも、サッカーの動作も、試合以外のやりとりも、うまく描けている。すごい。原作ものだから、どこからどこまでツジトモが管理しているのかわからないんだけど、それにしてもうまい。「GIANT KILLING」はテーマも独特だし、キャラクター造形もうまいし、ストーリーのテンポもいいし、かなりいいバランスで走っているんじゃないでしょうか。なんでもかんでも描こうとしないで、大事なポイントだけ描いていくのがいいんだろうなぁ。「GIANT KILLING」の構造だったら、0対0の試合でもおもしろく描けそう。そういう試合、あったっけ?や、このマンガは読みやすくて、適度に深くて、しかもおもしろい。マンガファンだけじゃなくて、サッカーファンにもすすめられる作品ですな。おすすめおすすめ。みなさんぜひ。王子おもしろいぜ。王子。
やー、マンガ話はキリがなくてアレですな。ほかにも山本直樹「レッド」とか三宅の「イムリ」とか小玉ユキとか、いろいろ買ったんだけど、それはまた今度。いまNBAが激動の時期だし、P.o.d.も出ちゃったから、大変なのよね(´Д`) あー、でもあとアレだ。オノ・ナツメの新刊も読んだなぁ。最高だった。あの人、いつの間にか質量ともにトップクラスのマンガ家になったねぇ。あの作風であの分量を描き続けているのがすごい。大王はすっかり休業しちゃったもんなぁ。天狗党絶版なんていう話も出ているし、ものすごく心配。どうしちゃったんだろうか。天狗党なー。豪華版でも出るのかなぁ。出ないだろうなぁ。やー、まぁなにはともあれ、とりあえずみなさんアレですわ。「宇宙兄弟」の単行本が出たら買って貸すから、ぜひ読んでください。おもしろいぜ。小山宙哉