宇佐美さん

上原の悔し涙に何を見た (文春文庫PLUS)

上原の悔し涙に何を見た (文春文庫PLUS)

こないだ読んだプロ野球記録本がひどかったので、原点に戻ってみようと思って、宇佐美さんの本を読んだ。
やっぱり宇佐美さんは慎ましくていいなぁ。彼にも主張があるんだけど、それが鼻につかない。こないだ読んだ本とは読後感がまったく違う。なにが違うんだろうねぇ。
やー、野球人との人間関係の違いかなー。宇佐美さんの文章に登場する選手や監督は、おだやかだ。選手や監督が、宇佐美さんの仕事に敬意を払い、宇佐美さんもまた、彼らに敬意を払っていたことがわかる。その信頼関係が、文章からみえる。
たとえば、宇佐美さんが長嶋さんの三振全体における、見逃し三振の割合を調べたときの、このやりとり。調査の前には、長嶋さんはこう言っていた。

「見逃し三振? 僕は少ないはずですよ。ワンちゃんよりは絶対少ない」と自信タップリだった。

ところが、調べてみると、長嶋さんは見逃し三振が多く、王さんは見逃しが少なかった。それを聞かされた長嶋さんの答えがこれ。

「どうでしたか、少なかったでしょ。えっ、意外と多い。ありゃまー。どうしてでしょうね。読み違いかな」と首をひねっていた。

やー、この親しげなやりとりが、宇佐美さんの仕事の質を表していると思うな。記録を通じて、プロ野球関係者やファンに新しい視点を提供する。それを選手も監督もファンも、楽しんでいる。この幸福な関係。これが宇佐美さんの仕事だと思います。
まぁ、なかには一方的な主張もあるんだけどね。稲尾さんのシーズン最多登板記録をめぐる騒動とか、スパイ擁護記事とか。そういうところはちょっと気になるけど、でも、全体的には慎ましく、読んでいて楽しい。
理論とか、主張とかじゃなくて、あくまでコラムなんだよな。宇佐美さんの文章は。自分が書けることを、しっかりと理解している人の書く文章。こういう慎ましさを見習いたいですね。や、おもしろかった。やはり宇佐美さんはいいです。