街の座標

街の座標

街の座標

芥川賞候補者の本を試しに読んでみるシリーズ第3弾。清水博子さん。候補作『vanity』が図書館になかったので、別のものを読んでみました。
大学生の女性が、自分と同じ街に住む小説家に対して、憧れのような敵愾心のような一体感のような、妙なこだわりを抱いて、もがく話。
女性は、小説家のことを強く意識しているんだけど、意識するだけで、面と向かって会おうとはしない。その一方的な意識を、これでもか、これでもかと掘り下げて、文字で表現した作品です。小説家のことを知りたいと思い、その気持ちを否定し、否定した自分を恥じ、やっぱり知りたいと思い、でも直接会うことは嫌がり、他人を介して小説家の情報を手に入れ、手に入れた情報をもとにして好奇心を高め、また小説家に関心を寄せ、という堂々巡り。ものすごい断絶ぶりです。
街のある地点には自分がいる、そこからほど近いある地点には小説家がいる、物理的にはほとんど離れていないのに、存在としては断絶している、ということを、ひたすら語り続けています。やー、くどいくらいに心象風景が書かれていましたよ。すごいね。女性は、小説家以外の人とは会うし、話もするんだけど、その会話もほとんどが、相手が言ったことをどう感じたかというひとり語りで記されています。モノローグにつぐ、モノローグ。狭い。
やー、これは好みの本ではなかったなぁ。こういう抑圧的な話は、どうも苦手ですわ。開かれない意識を書くことによって、はじめて提示できる観念もあるんだっていうことは、わかるんだけどね。そこに興味があるかというと、まったくないな。これ、テーマはなんだったんだろうなぁ。「届かない」ということを書いたのかな。や、よくわからんね。