神様のいない日本シリーズ

神様のいない日本シリーズ

神様のいない日本シリーズ

芥川賞候補者の本を試しに読んでみるシリーズ第2弾。田中慎弥さん。
いじめられて部屋にとじこもった息子に、親父が人生を語って聞かせる話。聞かせるのは、青春と日本シリーズのこと。芥川賞候補作とは思えないくらいすっきりした語り口で、すごくわかりやすかった。でも、最後には芥川賞候補作にふさわしい、ふわふわの結末が用意されていた。
これは「期待」の姿を書いた小説なのかな。あるいは「期待する」という行為かもしれない。なにかを判断したり、実践したりすることではなくて、待つことや、望むことがテーマだった。
待つことの経過や結果を、かみあった歯車として提示するのではなくて、断片的に、非論理的に提示していく感じ。その断片が積み重なって、総体的なイメージとして「期待」のようなものが浮かび上がる。神様はいないけれど、奇跡は起こる。奇跡が起こっても、すべてが変わるわけじゃない。ふくらんだ期待は、小さくなって現実のなかに落としこまれる。や、人々の思いが収束しないで、散り散りになっていくのがよかったです。
ただこれ、対話が少ないのが難点かなー。人物がみんな個々に立っていて、関係性が薄い。変化に乏しいというか、変化する力が弱いというかね。バンドの音楽じゃなくて、ソロのシンガーの歌みたいな小説ですな。魔法がかかっていない感じ。現実的。