悪童日記

悪童日記 (Hayakawa Novels)

悪童日記 (Hayakawa Novels)

やー、おもしろかったおもしろかった。戦渦を生き抜く双子の男の子の話です。彼らの破天荒なふるまいが、日記風に記されています。だから悪童日記
いやー、これはもう、このあけすけな文章がすべてですね。とにかくなんでも字にしてある。双子のみたものやしたことが、淡々と記されている。双子は家族にも他人にも、よいものにも悪いものにも肩入れしないので、ひどく冷めた記録になっています。隣人を助ける日もあるし、司祭を恐喝する日もある。やー、善悪どちらもむき出しになっていて、くらくらする本ですわ。唯一記されていないのは、双子の気持ちのみ。彼らがなにを考えているか、最初から最後までわからない。出来事は赤裸々に記されているのに、そこに心情の描写はない。や、このバランスはすごいね。この、生々しくてうつろな文章。なんだこれ。
戦時中のヨーロッパを舞台にしていて、歴史書としての側面もあります。ふつうに読んでもだいたいはわかるんだけど、巻末に解説もついているので、そこで背景をよく知ることもできる。やー、これはよくできた本ですねぇ。戦争の記録であり、成長物語であり、善悪の問いでもある。しかも、それだけの内容が、読みやすい日記形式で書かれている。約60編の日記で構成されていて、どれも3、4ページの短い文章です。その無駄のなさもすごい。ものごとをぼかしたり、飾ったりしないで、とにかくスパンスパンスパーンと、事実だけが述べられます。シンプルでグロテスクな小説。お見事!
ちなみにこれ、原題はLe Grand Cahierといって、大きな帳面という意味だそうです。もともとは、悪童を前面に出した本ではなかったということですな。実際、文中では善悪をはっきりとしたものとして扱っていないしね。ただまぁ、書名が「大きな日記」じゃ売れないからなぁ。いろいろふまえて考えると、悪童日記ってのはいいタイトルだと思いますね。確かに悪童ではあるしな。