やまだないとは語らない

ビアティチュード BEATITUDE(1) (モーニング KC)

ビアティチュード BEATITUDE(1) (モーニング KC)

マンガについて描いたマンガを2冊読みました。
1冊目はビアティチュード。やまだないとが『まんが道』をモチーフにして描いたファンタジー
やー、これはいいね。やまだないとって俺、雑誌でしか読んでなかったんだけど、まとめて読むとおもしろいなぁ。
若手マンガ家として奮闘中の青年が、トキワ荘に引っ越してきてマンガ家仲間たちと切磋琢磨するという、『まんが道』そのままの話です。ただ、細部が変えられてフィクションになっている。その変え方がおもしろい。以下、敬称略で。
まず主人公が、藤子不二雄の2人ではなく、石ノ森正太郎になっている。そして石ノ森の親友として、赤塚不二夫が登場する。ほかはだいたい同じ。テラさんも森安も、鈴木伸一もいる。あ、水野英子は変わっているな。なんかやたらとんがったキャラクターになっている。あと、藤子不二雄は1人の人物として描かれているね。
主人公の石ノ森は、なぜかアフロです。そして赤塚は中性的な美少年。ほかもすべて、キャラクターの造形は現代風。体型も二頭身ではなく、現実に近いもの。いまっぽい姿形の青年たちが、汗をかいたり欲情したり、酒を飲んだり嫉妬したりして、生き生きと暮らしている。体温の感じられる、いい青春ドラマに仕上がっています。
このマンガは、一人ひとりの感情の描き方がいいね。とくに赤塚がいい。赤塚の表情がぐっとくる。なにも言わず、仕草と表情で語るのがいい。彼が赤塚不二夫なんだとすると、この先、意外な才能を発揮して人間関係に変化を起こすんじゃないかなぁ。赤塚も、主役の石ノ森も、多くを語らずに生きていて、その静かな立ち方がいい。にぎやかな『まんが道』とは違って、大人っぽい、優しい作品になっている。『まんが道』が立身出世の確かな歩みを描いていたのに対して、このビアティチュードは、歩む青年たちの気持ちの揺れを描いている感じ。やー、これは少ない言葉でじわっとくるマンガだなぁ。2巻が楽しみ。手塚治虫は、どんな顔をして登場するのかねぇ。
ただこれ、どうせならこの作風で満賀と才野も描いてほしかったなぁ。才野の秀でた感じを、このウェットな絵でみたかった。や、それを石ノ森と赤塚でやるんですかねぇ。赤塚が才野になっていくのかなぁ。いやーでもこれだけ複雑な構成でありながら、『まんが道』を読んでいない人でも楽しめるようになっているってのは、いいですね。いいアイデア。おもしろい。