短編集

夜明けの縁をさ迷う人々

夜明けの縁をさ迷う人々

小川洋子さんの本をはじめて読んだ。短編集。ファンタジー
土手で毎日曲芸を練習している人、子どものころからエレベーターの中で暮らしているエレベーターボーイ、涙を売り歩く旅人などなど、どの短編にも不思議な人物が登場します。これはSFだなぁ。
やー、不思議な世界を書き出すのが上手な人ですねぇ。ごくふつうの読みやすい文章で、異質な世界を書いている。どう考えてもおかしいんだけど、すいすい読める。不思議だ。読みやすいSF短編集ですな。
全体的におだやかなトーンなんだけど、話の展開の仕方や閉じ方は、エピソードごとにけっこう変化します。すぱっと終わるサスペンスがあったり、切なく終わるラブストーリーがあったり、ほがらかに終わる家族ものがあったり。いずれにせよ、話の閉じ方にはかなり気をつかっている感じだね。読後感がいい。優しいものも冷たいものも、読んだあとに頭がすっきりする。いい短編集でした。
俺はチェスの話がいちばん好きだったな。人間それぞれ、別の方向を向いて生きているってことが、優しく書かれていた。や、この短編集は話一つひとつにあまり強い主張はないですね。テーマを強く提示するような場面はない。静かにわかりやすく書いている。そのやわらかさをどう感じるか、だな。俺にはちょっと弱い。話一つひとつは好きだけど、他の著作もどんどん読もうっていうほどフィットしたかというと、そうでもない感じ。まぁ、人それぞれですね。