読了

サーカス研究 (1984年) (Encyclopedia Ashihara〈vol.2〉)

サーカス研究 (1984年) (Encyclopedia Ashihara〈vol.2〉)

サーカス研究者・蘆原さんの本。タイトルには「研究」と入ってますが、研究書ではありませんでした。雑誌やパンフレットへの寄稿、インタビューなどをまとめたもの。コラム集みたいなもんだね。
彼の研究活動は資料の収集と調査が中心だったらしく、執筆はあまりしてなかったみたい。この本に収録されているのも、短文ばかりです。短くて一般向けの文章だから、サーカスの歴史や概要をざっとたどる感じで終わってる。深く突っこんだ記述が少なくて残念。なんちゅうかねぇ、ひどく牧歌的な文章なのよね。
ご本人もそこに物足りなさを感じていたらしく、サーカス研究の本を書きたいと公言していたそうです。でもまとまった時間がとれず、その夢を叶える前に他界されたとのこと。やー、それが実現したら名著になったろうなぁ。無念。
や、しかし読んでよかった。ピエロとクラウンの違いや、サーカスにおける道化の役割がよくわかりました。緊張をほぐすのが道化なんだってさ。なるほどねー。この本は蘆原さんが亡くなられてから出版されたものなので、関係者からの追悼文が載っていて、それもよかった。山口昌男さんが道化について簡単にまとめた文章がすごくいいです。

サーカスにおける道化は、白痴を装っている故に、ふつうの人間を支配しているアイデンティティ(自己同一性)に従う必要はない。彼には一貫性は要求されないし、因果律は彼には何らの拘束力をも及ぼすことができない。彼は、ある瞬間と次の瞬間の間に全く関係のない二つの行為に従うことができる。この能力の故に、彼は、多様な、一見ばらばらに見える記号の群をそのまだら服の中に繋ぎ止めることができるのである。

まさしく俺の思い描いてきた道化像がここに。一貫性を要求されないってのがいいなー。そんな環境で想像力を育んだら、きっとすごく楽しいことになると思う。やー、勉強になるなぁ。ちなみに蘆原さんご本人の文章で素敵だと思ったのはこちら。

苦渋のあとを見せることほど下品なものはない。それではもう粋ではないのである。

その通り!